ブルートレインの歴史に幕が下りた。
1958年10月1日、日本最初のブルートレインとして「あさかぜ」に始まり、2015年8月23日、「北斗星」に至る57年弱の短い歴史であった。
車両の老朽化や北海道新幹線開業など…営業運転を取りやめる理由は、コスト面においては幾らでもあるのだろう。
しかしながら、夜行列車の走らない文化的な損失は計り知れないと思う。
歌や文学、小説の舞台にもなり、個人の実生活においても、人生の節目や転機に夜行列車に乗った記憶を持つ人はきっと多いであろうし、そこに1つ1つのドラマがあったことだろう…
一夜を列車の中で過ごすことが、自分の心の中で物事や考えを整理する時間にもなったり、夜が明けて到着する目的地に期待や不安を抱いたり…眠れぬ夜をレールの響きとともに長い夜を過ごした人もいるだろう。
ホームでは、大切な人が出迎えてくれる乗客もいれば、別離の舞台になった旅人もあろう。
そんな経験を味わえない人が増えるのは、ある意味日本社会の精神的な貧弱さにも映る。
多様な経験がしづらく、効率よく集約された平均的な経験しか味わえない世の中を憂う。
今後、寝台列車は富裕層相手の豪華列車に生まれ変わるようだが、その類(たぐい)の列車は、経済が低迷すれば儚(はかな)く消える運命と背中合わせなのかもしれない。
普通に暮らす人々が駅で切符を買えて乗れる夜行列車や寝台列車こそが、その国の鉄道文化の厚みであり、拝金主義とは異なる鉄道事業者の「真の誇り」なのだと車掌長は考える…
その誇りとは、通常の運賃・料金を払う人々を、安全に時間通りに目的地へ運ぶという、ごくシンプルな使命。
「北斗星」のような、普通の人がちょっと背伸びをして移動自体を楽しめる旅情溢れる列車を、たやすく絶やしてしまう鉄道事業者には失望してしまう…
北斗星はじめ想い出のブルートレインに感謝しつつ、今後は記憶の中を共にいつまでも走らせ続けたい。
北斗星は想い出の中を走り続ける