美しの塔

カテゴリー:④番線:日々雑感方面 2012年3月 8日 06:34

長野県美ヶ原高原にそびえる「美しの塔」にこんな詩が刻まれている。

「登リツイテ 不意ニ開ケタ眼前ノ風景ニ シバラクハ世界ノ天井ガ抜ケタカト思ウ」

これは山岳詩人・尾崎喜八が詠んだ「美ヶ原熔岩台地」の一節。
今でこそ立派な観光道路が通じ、誰もが簡単に行ける場所となったが、当時は自力で辿り着く以外に術(すべ)はなく、詩人が目にした光景は想像以上の感慨であったと思う。

もちろん、今でも簡単に行けるとはいえ、そこに足を踏み入れた感動は十分に味わえる。
松本駅や上田駅から路線バスで山本小屋へ行き、未舗装の遊歩道を進む。
(マイカーやバイクなら霧ケ峰方面から、無料になって久しいビーナスラインのワインディングを楽しみ、山本小屋に愛車を置くのも良い。)

標高2000mもの高地であるが、一帯はどこまでも広い空とのどかな放牧地。
「世界ノ天井ガ抜ケタ」という表現の素晴らしさを実感し、詩人の感性に近づきたくなる。

時間を忘れてのんびり歩くと、美しの塔が見えてくる。
霧で視界が悪い時に、登山者の道標となる霧鐘塔として建てられたものだ。
この形がなんとも好きだ。

話は現実に戻るが、経済と政治が低迷し、先の見通しが立たない世の中と言われる。
そんな時、声高に叫ぶ者が霧鐘塔になれるかと言えば、それも疑問だ。

大切なことは、一人一人が自ら考え、物事を見抜く視点や、複数の意見を耳にし、そのメリットとデメリットを聴き分けること。
そうすれば、自ずと道が見えてくるのではないだろうか。

もちろん、時には独善的な選択となり、失敗もある。
車掌長もそんな失敗が幾つもある。
しかしながら、自ら選んだ道の先には、結果として「世界ノ天井ガ抜ケタカト思ウ」ような実感や時間が得られると思う。

美しの塔は、そんな想いに至ったことを思い出させるモニュメントである。
 

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