つりしのぶ

カテゴリー:⑤番線:feel the season方面 2013年7月11日 05:00

昨日、所用の帰りに日本橋の丸善に寄った。

お目当ては、1階のセレクション売場前で行われている"えどコレ!"というイベント。
工芸職人の実演展示販売を行っているのだが、中でも「つりしのぶ」が欲しかった。

東京で唯一、「つりしのぶ」を作っておられるのは深野晃正(ふかのてるまさ)さん。
深野さんは車掌長の父と同じ生まれ年で70過ぎの御方だが、物腰の柔らかなお人柄に心底癒されてしまった。

深野さんのご説明によると「つりしのぶ」とは、江戸時代に生まれた江戸文化の象徴の1つ。
竹などの芯材に山苔を巻き付け、"しのぶ"と呼ばれるシダの仲間の草を束ねて形を作ったもの。
ちょうど今頃の季節、夏の暑さをねぎらい家の軒先に吊るし楽しむもので、夏の季語にもなっているそうだ。

展示販売されていたのは、大小さまざまな形で、井桁、かすみ、井戸、いかだ、小舟他があった。
車掌長は中でも、"井戸"が気に入ってしまった。
我が家には軒がないので、吊るすタイプのものよりも置く形状だったのも良かった。

小ぶりの井戸に苔やしのぶがコンパクトに収まり、自然な造形美を楽しませてくれる。
しのぶの繊細な葉状が、なんとも美しい。
また、下から見上げると、大げさだが小さくなった自分が大樹を見上げているような錯覚さえ感じる。

最近、車掌長は職人が作るものに魅力を感じる。
それは、全工程を一人で完遂させることによって、その人の情熱や想いが吹き込まれ、作品に命をもたらすと思えるからだ。

そして、一つとして同じものがないことの素晴らしさ。
製造工程が効率よく分業され、大量生産されたものが心配になるほど安価で出回る世の中…
それらがどこの国で、どんな人が、どのような労働環境や賃金によって作られたものを、僕たちは食べたり、着たり、使い捨てにしているのだろうか。

つりしのぶを手にし、モノへの愛着や大切にする心持ちを再認識した。
 

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