立ち売りの駅弁

カテゴリー:①番線:鉄道(JR・私鉄)方面 2013年12月17日 04:58

先週末、所用で福岡を訪れた。

空いた時間を利用して、かねてより立ち寄りたかった駅へ向かった。
そこは、いまだ駅弁の立ち売りが健在と言われる「折尾駅」。

一時、ベテランの販売員さんが体調不良で退職し、立ち売りが休止状態であったが、近頃は別の職員が配置され復活したと知り、気になっていた。

いざ車で折尾駅へ着いてみると、写真でしか見たことのない重厚な駅舎は取り壊されていた。
門司港駅を彷彿させる、風格ある大正時代の遺産を一目したかったが、叶わなかった…
やはり、物事は後々悔いが残らないよう、行ける機会をつくるべきだったと感じた。

落胆しつつも、入場券を購入し、仮駅舎を通り駅構内に入ってみると、まだまだ大正時代の姿を偲ばせるものに出逢えた。

折尾駅は鹿児島本線と筑豊本線がクロスする交通の要衝(ようしょう)。
日本初の立体交差駅としても知られる。

立体交差を構築する複雑な駅構内には、煉瓦造りの連絡通路や、ホーム屋根を支える木や廃レールの柱や梁、往時の蒸気機関車の煤(すす)で黒々したガード下etc…
どれもが100年近い歴史の生き証人…
きっと様々な世相や人間模様を、これらは見つめてきたのであろう。

そして、いよいよ駅弁の立ち売りが行われている鹿児島本線の5番ホームを目指した。
美しい煉瓦の地下通路を進むと、やや高い声で駅弁を売る声が響いてきた。

立ち売りをなさっているのは、小南(こみなみ)さんという御方。
折尾駅の「かしわめし」を買いに○○から来た旨伝えると、自己紹介して下さった。
逆に、○○のどちらからと尋ねられ、△△ですとお答えすると、私も住んでおりましたとのこと。
束の間、ついつい地元談義になってしまった。

「立ち売り、大変でしょうけど応援しております」と言葉を残し、5番線を後にした。

お目当ての「かしわめし」は、いまどき珍しい経木(きょうぎ)の折箱。
その手触りと簡素な包装紙に、胸がトキメイタ。

蓋を開ければ、鶏そぼろと錦糸卵、刻み海苔がきれいに斜めにストライプ…
いざ、箸をつけ口に頬張ると、掛け値なしに「美味い!」と言ってしまった。

値段も650円と良心的で、余計な副菜が極めて少ないのも素敵だ。
本当に味わい深い駅弁というのは、こういうスタイルなのだと実感する逸品であった。

最後に、包装紙にあった石黒敬七氏の言葉を紹介したい。
「関門トンネルを出ると、緑と太陽の国"九州"に入る。そこには僕の楽しみの一つである東筑軒の"かしわめし"が待っている。この駅弁の味から、夢多き九州の旅が始まるのである。」

昔は長編成の長距離列車が滑り込んだであろう、さきほどの長い長いホームを思い出し、旅人が舌鼓を打った伝統の味覚を噛みしめた…

 

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