2018年は下部で湯開き

カテゴリー:⑥番線:温泉方面 2018年1月 9日 04:56

年明け、ふらり一人で温泉へ向かった。

予定を空けておいた日が、急遽フリーとなり、湯開きをどこかで…と思った次第だった。
近年、一人旅をリーズナブルに受け入れてくれる宿もだいぶ増え、今年をどう過ごそうか…などと耽(ふけ)りくなった。

候補先として、湯宿(群馬県)、日光湯元(栃木県)、下部(山梨県)が頭に浮かんだ。

懐具合に合致する10,000円未満の宿は、どの温泉地も空いていたが、湯宿は熱湯であるし、日光湯元は雪見風呂が魅力的で一旦予約したが、ネットに謳われていた日光駅からの無料送迎バスを宿に電話で申し込もうとしたら、実はやっていないことが判明し、即キャンセル。

結果、信玄公隠し湯の下部温泉に宿を取った。

下部温泉は二十数年前に行ったきりだったが、車掌長の大好きな「ぬる湯」が印象に残っていた。
体温よりも低い源泉はこの時期は辛いと思ったが、10年ほど前に高温の源泉掘削に成功したと聞いていたので、交互浴ができるなら申し分ないと思った。

送迎もあったが、最寄駅からは歩いて宿へ向かった。
のんびりと温泉街を歩いて20分ほど、神泉橋を渡って左の渓流沿いに佇む大黒屋に到着。

呼び鈴を鳴らしても人気の無いフロントであったが、玄関上って目の前の談話コーナーには、ストーブが焚かれ冬枯れの渓流を眺めながら、折り目がクリーニング上がりのワイシャツのような、まだ誰も読んでいないと思われる新聞を開き、主人が現れるのを待たせてもらった。

一通り読み終えても来る気配がないので電話を掛けたところ繋がり、無事に記帳も終えて部屋に通してもらった。
バス・トイレとも共同の6畳間だが、一人者には十分。既にエアコンも入れてあり暖かく、布団も敷いてあってお誂(あつら)えの気分となった。

早速、浴衣に着替えタオル1本持って浴場へ。
ぬる湯と温湯が注がれる二つの浴槽を、交互に楽しむ湯浴みが始まった。

まずは、ぬる湯から足を入れるが、「ぬるい」と言っても、実際は「やや冷たい」と言った方が正しいだろう。しかしながら、ゆっくり体を馴染ませて肩まで浸かると、次第に心地良くなる…

まだ陽も高い時分に、貸切状態の大浴場に独りで湯に浸っていると、なんとも言い知れぬ贅沢な時の流れが身を包み込んだ。

おかしな表現だが、体が一通り冷えたところで、今度は温湯に身を沈める。
すると、一気に体の芯や奥底から、別次元の新たなパワーというか、エネルギーが漲(みなぎ)って来る実感が湧いてきた…

こんなことを繰り返し、あっという間に1時間が経過した。
そして、この交互浴こそ、この時季の下部温泉の骨頂であると実感できた。

湯上りに冷えたビールでグビっと喉を潤し、旅立ちの前に地元の書店で買った新書を手にし、読み始めた。
障子で隔てた広縁の更なる窓辺から耳に入るせせらぎだけが、今聴こえる音だけの世界。
時折、ページをめくる音と、喉越しの良いビールが空腹の胃に落ちてゆくことさえ、まるで水琴窟のように体に響き渡る音のように錯覚するからたまらない…

夕食前にもう一度、上述のような湯浴みを楽しんだ。

翌朝も昨日と同じように湯に浸かり、計3回を心ゆくまで堪能した。
交互に入ったふたつの温泉は、体中の何かを覚醒させ、この一年をどんな風に過ごそうか…車掌長自身なりのイメージも湧いてきた。

往路は甲府から身延線で南下し下部温泉入りしたので、帰路も南下を続行し東海道線経由とした。
途中、沼久保駅を過ぎると、イメージ的には右車窓に見えるはずのない富士山が、綺麗にその秀峰を現した。

しかしながら、JTB時刻表の路線地図はさすがであった。
しっかりと、沼久保を過ぎると線形が上方へ向き、右手車窓から富士山を見れるほど湾曲する線形を見事に描出していた。

そんなささやかなことにも感心しながら、思いつきで出発した1泊の独り旅はお開きとなった。
 

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