東急池上線開業90周年

カテゴリー:①番線:鉄道(JR・私鉄)方面 2012年10月 7日 06:55

昨日は東急池上線開業90周年(蒲田~池上間)の記念日だった。
ちょうど横浜の綱島に所用があり、帰り道にふらりと遠回りをして蒲田から五反田へと乗った。

沿線にはカメラを持ったファンが多く見受けられた。
皆のお目当ては、この日を記念して走る7700系「クラシックスタイル」の特別装飾車両だろう。

昨日はそんな賑わいがあっても、池上線のノンビリした雰囲気を十分楽しめた。

まずは蒲田駅の構造を鑑賞。
端頭式(いわゆる行き止まり)のホームが並び、上からみれば「ヨ」の字のようになっている。

この造りは、ここに長距離列車が来るはずもないのに、何故か「旅情」を感じさせる。
高い三角屋根も良い。大げさだが部分的に妄想すれば、欧州のターミナル駅に来たようだ。

次の用事があったので途中下車はできなかったが、池上駅ではホームに降り立った。
この駅は都内の駅とは思えない「構内踏切」が存在する。
つまり、出口へ向かう際のホームを横断する跨線橋や地下通路がないのだ。
蒲田方面から来た乗客は、後方の踏切を渡って改札を出ることになる。
これは貴重な光景だ。

また、ここのもう1つのお目当ては木製ベンチだ。
ホームの壁と一体化したような直角の造り。
長さは大型バス1台分くらいはあろうか…

長年、多くの人が座り電車を待ったイスの角はツルツルで、触り心地が素晴らしかった。
また、臀部(でんぶ)の当たり具合が絶妙だった。

今のイスのようにどっぷり座るものではなく、まさに腰掛け程度の浅さめの座り心地だ。
しかしながら、クッション性のかけらもないベンチなのに、程よい硬さと木製の柔らかさが大臀筋(だいでんきん)を喜ばせてくれた。

あまりに座り心地が良かったので、電車を3本見送った…

途中、旗の台駅にも同様のベンチを発見した。

終点、五反田駅は地上4階に相当する高さにある高架駅だ。
昭和の初めに五反田まで開業した際は、この高さは屈指の高架駅だったろうなと察する。
今やこの大都市東京で、こんな吹きさらしの見晴らしの良い高架駅も貴重な場所だと思う。

池上線は全線乗っても22分の短い路線。
だが、そこには昭和の古き良き雰囲気が、沿線の街並みや由緒ある寺院や史跡とともに、静かに「時」を刻んでいる。

日常利用されている方々には、他線に比べハード面で見劣りしたり、多少の不便さがあるかもしれない。
しかしながら、それらを差し引いても、いまやなかなか体験できない要素を大切に使いながら残し続けることに、歴史的な価値があると思う。

ひいては、それらを求めて多くの人々が集まる「ヒストリック・レイル」となる可能性を秘めている。
これは沿線全体、その線自体がミュージアムとなるイメージだ。
鎌倉の江ノ電のように、「イケ電」「ガミ電」として親しまれる存在になることも願う。

可能であれば、いつまでも合理化や効率化、上辺(うわべ)だけの美化の流れから外れ「そっとしておいて」もらいたい名線だ。
 

 

シャングリ・ラ鉄道

カテゴリー:①番線:鉄道(JR・私鉄)方面 2012年9月28日 21:53

「シャングリ・ラ鉄道」とは、世界的な鉄道模型製作&所蔵家である原信太郎氏の理想郷だ。

今日、横浜での所用の合間になんとか1時間を捻出し、今夏オープンした「原鉄道模型博物館」を訪れた。
オープンから夏休み中は活況で入場制限も行われていたが、平日の午後ということもあり1時間とはいえ、ゆっくり鑑賞できた。

中でもお目当てだった世界最大級のレイアウトは圧巻であった。
車掌長は「一番ゲージ」と呼ばれる鉄道模型の規格は今まで馴染みが薄かったが、今日はその原模型の魅力に憑りつかれてしまった。

全て本物を再現したという車両の作り込みの緻密さや精度の高さは、その走りに端的に表れていた。
その最たるものが「走行音」だ。

鉄のレールの上を、鉄の車輪の列車が走る。
架線からの電気で走り、ブレーキや惰性走行など、どれもが実際の鉄道技術で再現され眼の前を走る。

長い編成の列車が、レールの継ぎ目を通る際の「ガタンゴトン」という音が、とてもリアルだった。
目を瞑れば、実際の列車が通過しているようだ。
また、トンネルの出口で聞き耳を立てれば、次第に近づく列車のレール音が胸をときめかせてくれた。

原信太郎氏は93歳で、ご自身の理想郷「シャングリ・ラ鉄道」を形にされた。
素晴らしい人生だと共感する。
今日は展示コーナーを隅々まで見ることができなかったので、また是非訪れたい。
そして、日本を代表し、世界に誇れる鉄道模型の第一人者として、今後益々のご活躍を心から願う。

車掌長もJTB時刻表愛読1000号を迎えるのは95歳と似たような歳になる。
原氏のような立派な形は難しいが、生涯を貫徹する時刻表愛読の理想郷を創れたなら本望だ。

仮に、その日まで寿命がなかったなら、その夢は車掌見習いに託したい…

余談ですが、このたび当車掌区に新入の車掌見習いが配属されました。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
 

只見線タブレット廃止

カテゴリー:①番線:鉄道(JR・私鉄)方面 2012年9月22日 07:24

タブレットと言っても、iPadなどのタブレット端末のことではない。
鉄道の単線区間における、列車同士の衝突防止策として使われる通行証(通称:タブレット)の話だ。

タブレット本体は直径約10cm、厚さ1cmほどの丸い金属で、タブレットキャリアと呼ばれる大きな輪の付いた革製のポケットに格納されている。

単線区間では、この物体を持っている列車だけがその区間の走行を許可される「形ある証」だ。
これは、今日のデータ等による形のない「認証」では味わえない、頼もしさがある。

今日、9月22日をもって全国のJRで唯一残っていた只見線でのタブレット閉塞に終止符が打たれる。
以前、日本中のローカル線で見られた運転士と駅員とのタブレットの受け渡しは、もはや記憶の中の情景となった。

ところで、車掌長は鈍行列車が各駅でタブレットの授受を行うのも好きだったが、幹線での優等列車が通過する駅でタブレットを交換する光景がたまらなく好きだった。

特に中学生の頃、旧型客車の鈍行を追いかけて山陰本線をよく旅したが、ディーゼル特急や急行の運転士(運転助士)が通過駅進入の際に行う、タブレット授受の「投げ入れ」と「すくい取り」がカッコ良かった。

こんなタブレット閉塞という運用は、全てが人手を要する古典的な保安システムのため、経営的に見れば非常に効率の悪いやり方だ。

しかしながら、全てを自動化しなくても良いのではないだろうか。
交通遺産、文化遺産として「動態保存」のような趣旨で、後世に残せはしないか…などと考えるのは許されない価値観だろうか。

車掌長は、色々なシステムや考えがバランスよく調和や共存できることが豊かな社会だと考える。

そして、タブレットは現代を生きる人間が、未来を担う世代へ大切なものを引き継ぐ「バトン」にも見える。

お互いが確認できる、実感できる「形」あるものを引き継ぐことが「文化」であり、お金で買えない「価値」なのだと思う。

そして、そうした生身の人間の営みこそが、銀河鉄道999の言葉を借りれば「永遠の命」なのであろう。
 

 

2時間59分

カテゴリー:①番線:鉄道(JR・私鉄)方面 2012年9月 5日 05:28

 

表題の時間は来春のダイヤ改正で、東京と新青森が結ばれる所要時間だ。
JR東日本の「はやぶさ」が試運転を重ねた結果、当初予定の3時間5分から6分以上短縮させることを可能とした。

最高速度は現行の300㎞/hから、320㎞/hへ引き上げられ、国内最高速度となる。

青森まで3時間を切ることは、鉄道事業者として切実な壁であったことだろう。
それは航空機との競争があるからだ。

「6分」のインパクトは、単なる「6分短縮」ではない。
「2時間台」という表現ができる大看板だ。

航空会社にとっては脅威だ。
このダイヤ改正によって、東京~青森間で飛行機を利用する人は、時間に余裕がある人か、マイルを貯めている人になるかもしれない。
まして、青森便は気象状況による「欠航」も多い路線として有名だ。

それにしても、航空機利用者が車掌長の言う、「時間持ち」のカテゴリーに入りつつある現象も面白いことだ。
飛行機は純粋な飛行時間こそ短いが、出発空港及び到着空港のアクセス、搭乗時間、欠航のリスクを含めれば、実はかなり面倒な乗り物だ。

車掌長はその面倒な時間も旅情と感じ、飛行機も大好きだが、出発時間ギリギリに飛び乗れる簡便さや、本数の多さという融通性から言えば、新幹線に軍配が上がるのは明白だ。
 

しかしながら、東北新幹線の速度向上もここまでにしてほしい。
この先は、東海道新幹線のように、1分という時間を縮めるために莫大な投資を必要とする領域に入る。

車掌長は、その1分のために回す資金よりも、被災地の鉄道復興や災害で不通となっているローカル線の1日も早い復旧を切に願う。

儲かるところに投資をするのが「経済社会」だが、鉄道には「公共性」の使命があることを忘れてはならない。

また、これは余談であるが、青春18きっぷでのんびりと旅を楽しむ人が増えていることに喜びを感じる。
しかし、最近は多くのローカル線での慢性的な車内の混雑が気になる。
旅行者だけでなく、日頃利用している方々も、都会とさほど変わらないのでは…と感じる。

これは、1本の列車の編成が短すぎるのが原因だ。
ワンマン運転の多い路線は、運転士が車掌の役割を担っていることもあり、1人の目が届くのはやはり1両かせいぜい2両編成であろう。
何でも効率を求めればこうなるのは仕方がないことか…

また、地方の中都市間を結ぶ近郊列車も、概ね車両数が短めの傾向にある。
たしかに見た目の「乗車率」は良い数字を弾き出すが、利用者にしてみれば「受難」だ。

特に、東海道本線を東京口から熱海などで乗り継ぐ場合、10数両あった列車から、その半分以下の両数しかない列車に乗って閉口した人も多いのではないだろうか。
青春18切符愛用者も、せっかくの鈍行旅行なのに、のんびりと車窓など楽しめず、座ることが旅の目的になるかもしれない。

何でも「儲け」や「効率」ばかり追いかけると、貴重な鉄道の魅力を失いかねないであろう。
 

コメント(2件)

匿名さんからのコメント(2012年9月 5日 20:27投稿)

東北新幹線は、その先の北海道新幹線と繋がっているので
更なるスピードアップをせざるをえないのです。

匿名様さんからのコメント(2012年9月 5日 21:21投稿)

匿名様

このたびは哲×鉄ブログ本線ご乗車ありがとうございました。

匿名さんの仰る通り、東北新幹線は北海道新幹線へと繋がっていきますので、更なるスピードアップは使命だと言えます。

特に、青函トンネルは新幹線が走ることを見越した規格になっていますので、宝の持ち腐れとならないようにすることも理解できます。

また、青函トンネル内は、速度の違う貨物列車運行との兼ね合いで、どこまで新幹線のスピードを確保できるかが課題だと言われています。

そうなれば、東京から函館までの所要時間を短縮する要は、既存の東北新幹線内でのスピードアップとなることでしょう。

それにしても、新幹線で函館まで行ける日も近いことが夢のようです。

青函連絡船で青森から函館まで3時間50分かけて旅した時間に、少しプラスするだけで東京から函館に着いてしまうのですから…

末筆ながら、コメントをいただいたお礼を重ねて申し上げます。
ありがとうございました。

ところで、匿名さんはどんな旅がお好きでしょうか。

よろしければ、またのご乗車の際に教えてください。

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おれんじ食堂

カテゴリー:①番線:鉄道(JR・私鉄)方面 2012年8月30日 05:29

食堂車復活!の嬉しいニュースが舞い込んだ。
昨日の新聞で、第3セクターの肥薩オレンジ鉄道が発表したことを知った。

肥薩オレンジ鉄道は、八代(熊本県)と川内(鹿児島県)を結ぶ路線。
その約120㎞を3時間ほどかけて、食事を楽しみながら旅ができる観光列車が来春登場するという。(※川内は「せんだい」と読む)

この観光列車の名前が「おれんじ食堂」。
全席指定の2両編成で定員は約40名というから、かなりゆったりしている。

車両のデザインは、工業デザイナーの水戸岡氏によるもので、木の温もり溢れる内装。
この素晴らしい空間で、沿線のレストランと提携し、地元の食材で料理を供するという。
座席の多くが風光明媚な海岸線を向いており、カフェレストラン風なのも素敵だ。
既存の「食堂車」のイメージとは異なる、全く新しいコンセプトだ。

食堂車といえば、いまや3本のブルートレインで残るだけの「絶滅危惧種」的存在だが、このような形で復活されることはとても素晴らしい。

鉄道の旅の醍醐味は、日頃利用する通勤電車のような窮屈さではない。
まして、長距離列車の座席で広げるのが、コンビニ弁当やペットボトル飲料のような全国画一の味覚でもない。
「車内」という広い空間は、創造の源だ。
また、複数の車両を連ねる「編成」という、鉄道にしかできない、夢を繋ぎ合わせるような醍醐味がある。

1両1両異なる車両を連ねるのは、製造から日頃のメンテナンスまで、手間もコストもかかる。
しかしながら、そんな手間やコストをかけた仕掛けこそ、わざわざ遠方から「乗りたい」と思わせる空間や、過ごしたいと願う「時間」があるのだろう。

昨日は、ノスタルジーの夢を実現してくれた「いすみ鉄道」の話。
今日は、鉄道にしかできない車内での豊かな時間を楽しめる話。

両社とも第3セクターという、経営的には決して安穏ではない厳しい環境にさらされている。
だが、こんな素晴らしいアイデアを素早く実行できる小回りの良さは、逆手をとって考えれば第3セクターという組織のメリットでもある。

無謀かつ無味な新幹線延伸が続く中、今後ますますJRから切り離され誕生する第3セクターが増える。
JRが採算に合わず不用とした大切な生活路線や、そこにあった文化、人々の絆を、「いすみ鉄道」や「肥薩オレンジ鉄道」のようなアイデアで蘇らせてほしいと願う。

地方における鉄道の役割は、どこもマイカーにお手上げだ。
だが、マイカーのような単なる「足」ではなく、鉄道にしか存在しない、できない魅力を呼び覚ませてほしい。

そんな願いを込めて、車掌長は異例の2日連続の乗務に励んだ。
 

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