カレチ

カテゴリー:①番線:鉄道(JR・私鉄)方面 2012年3月20日 06:05

久しぶりにマンガの単行本を買った。
「カレチ」という池田邦彦さんの作品だ。

「カレチ」とは聞き慣れない方も多いと思う。
国鉄時代の鉄道電報略号で、旅客列車長(リョカクレッシャチョウ)から取ったもの。
特急や急行の長距離列車に乗務し、客扱専務車掌を指す国鉄内部の呼称であった。

このマンガは昭和40年代後半、大阪車掌区に籍を置く「荻野カレチ」が、長距離列車に乗務する中で起こる様々な出会いや出来事、トラブルのエピソードを集めたもの。
そして、それらのエピソードの中で失敗と成長を繰り返しながら、一人前のカレチになってゆく一話読切の話。

時代考証というと大袈裟だが、実在した車両や駅の面影、沿線の郷愁が懐かしく、鉄道を支えた多くの業務や慣習、切符の形や内容までどれも正確に描かれているのが、一ファンにとってはたまらなく良い。

車掌長も子どもの頃、一人旅で出会った駅員や車掌、車内で乗り合わせた乗客との会話や、親切にしていただいた想い出が沢山よみがえる。
特に、当時の地方の駅員や車掌は、言葉や目配り、気配りに温かみがあった。
それは今日の接客マニュアルになどには出てこない、心の通った言葉であり会話だった。

このマンガの登場人物や列車、風景などの描写も、穏やかで温かな雰囲気に包まれている。
肝心のストーリーは、荻野カレチが常に「乗客のため」を思い、一所懸命に業務に向き合う内容で、現代でも大切にしたい心掛けや教訓、考えさせられる話が散りばめられている。

人は誰しも仕事や生活に対し、少なからず抱く感情や起こす行動があると思う。

誇りや信念、美学、自信、責任、覚悟、完遂…
一方、保身や打算、虚勢、消沈、怠慢、妥協、虚偽、欺瞞(ぎまん)…

車掌長もそうだが、人の「強さ」と「弱さ」は背中合わせに存在する。
そのどちらに軸足を置くかで、その人の人生は大きく変わる。
つまり、「誰のための仕事」なのかを考えることである。

いま自分たちが行っている仕事は、もちろん給料を得るためであり、生活のためである。
だが、必ずその労働の対象には有形無形の相手が存在する。

その相手に喜ばれたり、感謝されたりする経験は、給料以外にも換金できない価値や喜びが得られるだろう。
ただ、その思いや行為を逆手にとってクレームを付けたり、過度な要求をする相手がいるのも現実…
マンガ「カレチ」は、そんなことを共感したり、悩みを解決する糸口やヒントがあると思う。

もちろん、そんな難しいことを考えずに気楽に読むのも良い。
素晴らしい作品なので、ぜひオススメしたい。

現在1~3巻が出ており、次の単行本化が楽しみだが、待てない時は週間漫画「モーニング」をどうぞ。
但し、「カレチ」は月一連載なので、運転日(掲載号)にはご注意を!
 

毛細血管と鉄道路線

カテゴリー:①番線:鉄道(JR・私鉄)方面 2012年3月17日 06:37

今日は違う角度から、鉄道について見つめることを試みたい。

人の体は心臓から動脈で血液送り出し、細動脈として末端まで運んでいる。
逆に心臓へ戻す際は、細静脈から静脈を経て心臓に戻ってくる。

毛細血管は、細動脈と細静脈を結ぶ網目状の細い血管だ。
血管内の血液と体内各部の組織との間で、栄養素や酸素、二酸化炭素、老廃物等の物質交換を行っている。

人の体は鉄道網とよく似ている。
心臓を東京駅と仮定すれば、動脈は新幹線の「下り」。静脈は同「上り」。
細動脈と細静脈は在来幹線。
毛細血管はローカル線。

また、列車は血管を流れる血液成分に例えられないだろうか。
赤血球や白血球、リンパ球は新幹線や特急であり、体内に必要な酸素(人)を円滑に運び、細菌から体を守る働き(高度安全運行システム)は、経済活動や人の往来を支えている。

一方、血小板や血漿(けっしょう)は、寝台列車、夜行列車、急行、貨物列車と言えるだろう。
栄養素やイオン、水、ホルモンを運び、不要物や水を持ち帰り、体温調節や体の保護、止血を担っている。

今日の鉄道の状況は、新幹線という動脈と静脈は肥大化し、多くの人々が活発に往来している。
だが、その先の在来線や更に先のローカル線は、急激に血管が細くされ血流が悪くなっていたり、既に廃線となり壊死(えし)した箇所も多い。

また、血液である列車も高速化と効率化の一辺倒で、安全を大前提に奮闘している。
しかしながら、メンタル面を含めた複雑な人間のつくりを円滑に維持したり、修復する補完的役割を担うような列車は壊滅(かいめつ)状態だ。

つい一昔前まで寝台列車や夜行列車の存在は、疲弊した現代人の体や心を癒す独特な「時の流れ」を提供していた。
また、そういう時間を大切にできた社会は精神的に豊かだったと思う。

今や、夜行列車に揺られて翌朝着くよりも、当日始発の新幹線で間に合うなら、そちらを選ぶ世の中なのかもしれない。
だが面白いもので、人の思考力や発想力は、違った環境や空間、時間の中で思いもしないパフォーマンスを生み出すことがある。
人々の思考が多様であり、それが大切にされる社会は、危機に強く、好機を逃さないものだと思う。

昨日、寝台特急「日本海」や夜行急行「きたぐに」がラストランを迎えた。
ニュースや新聞で報じられてはいたが、一過性の話題の範囲であり、その列車が存在すること、走り続けることの意味を深く掘り下げた報道は無かった。

人の体が新鮮な酸素を体の隅々まで行き届かせ、老廃物を回収し正常に循環させることが「健康」であるように、鉄道も地方のローカル線を切り捨てれば、その「地域」という組織に血液は届かず衰弱するであろう。
大袈裟だが、日本という体は毛細血管に血が回らなくなった地方から弱体化し、やがて国全体が活力を失うのではないか…と危惧する。

昨夜はそんなニュースを見て、ローカル線や人々の移動の多様性を維持する夜行列車を、ぜひ復活させてほしいと考える一夜であった。

寝台列車や夜行列車の復活は、きっと体内の老廃物(ストレス)を取り除き、分刻みの慌しい日常時間で負った傷を止血(癒し)してくれるだろう。 
 

小田急HiSE引退

カテゴリー:①番線:鉄道(JR・私鉄)方面 2012年2月18日 07:52

春は別れの季節という。
今春は鉄道の世界にも、名列車や名車両の引退が目白押しで、名残惜しさが募る。

JRの列車では「日本海」「きたぐに」、車両では初代のぞみ「300系」やJR東海あさぎり号の「371系」など。
私鉄では小田急の動きが顕著で、特急用のHiSE(10000形)やRSE(20000形)、通勤用5000形と3種も運用から絶滅する。

中でも、HiSE(10000形)は小田急ロマンスカーシリーズの完成形だと車掌長は思っている。
外観のデザインで好きなのは、「ロマンスカーと言えば展望席!」という絶大なる人気を博した3100形だが、どの席に座っても楽しい車窓を提供してくれたのは10000形だ。

高床のハイデッカー車両は視点を高くして眺めを良好にしたが、乗降口のステップが車椅子を利用する方には支障があった。
今後は長野電鉄に譲渡された「ゆけむり号」で再会できる。

余談だが、ロマンスカーの自動回転座席は子どもの頃の楽しみだった。
JR新宿駅の中央線緩行(総武線)下りホームでは、小田急の屋内の行き止まりホームに到着したロマンスカーを、グリーン車のマークのような窓から見ることができる。
そして、折り返しのため座席が一列おきに自動で整然と回転する光景が大好きだった。
そんな時、目の前に総武線の黄色い電車が入線すると、とてもショックを受けた想い出がある。

最近の車両は小田急に限らず「乗る楽しみ」や「一味違う」と思わせるものが少なくなった気がする。
省エネや加速の良さに貢献する軽量化は時代の流れだが、どれも均一の質感でほどほどに快適だが、心が満たされるようなワクワク感は乏しい。

何でも実用性、効率性だけの画一的な価値観は、鉄道にとどまらず、世の中もモノトーンな気分にさせる。
春は別れの季節と書いたが、そんな世の中とも気持ちとしては別れ、新たな希望を感じられる世の中になってほしいと願う。

多様性のある、カラフルな花が咲き誇るような、一人一人が輝ける世の中を望みたい。

 

キハ30形

カテゴリー:①番線:鉄道(JR・私鉄)方面 2012年1月15日 06:50

首都圏のJR非電化線区、久留里線で活躍しているディーゼル車「キハ30形」が今秋引退する。
同時に、キハ37形及びキハ38形も花道をお供して、新型車両キハE130形へとバトンタッチする。

もちろん、日頃利用される沿線の皆さんには、乗り心地も良い新型車両の方が良いと思う。
たまにしか乗れない「鉄」としては、その勇姿と味わいを写真や記憶に留めるしか術(すべ)はない。

キハ30形は元々首都圏の非電化路線で増え続ける通勤利用に対応し製造されたキハ35系の派生だ。
子どもの頃は、八高線や相模線でよく乗った想い出がある。
ディーゼル車なのに、中央線を走る国電と同じロングシートにガッカリした幼き記憶がある。
やがて相次ぐ電化のため、JRでの活路はこの久留里線のみとなっていた。

JR民営化後、国鉄の忌まわしい大赤字や体制と決別するかのごとく、既存の各地の旧国鉄車両はカラフル(奇抜?)な塗装に置き換わった。
だが久留里線のキハ30形は、2009年に朱色とクリーム色のいわゆる「国鉄色」に”お色直し”して、人気が再燃した。
久留里線に限らずJR各支社では、数少なくなった旧国鉄車両を元の国鉄色に塗り替える動きが活発である。

国鉄色は、「鉄」の贔屓(ひいき)を差し引いても、日本のどの風景にもよく似合う。
特急・急行しかり、ローカル線しかりである。
これらの懐かしき情景は、ぜひ「哲×鉄 JTB時刻表アーカイブ本線」をご乗車(ご参照)いただきたい。
皆さんにおかれては、どの辺りの時代が懐かしいと感じるのだろうか…

何はともあれ、久留里線の名車両に感謝と労いを伝えたい。

約50年の運行、おつかれさまでした。
あともう少しのご奮闘を願います。

 

コメント(2件)

トミーさんからのコメント(2012年1月15日 23:18投稿)

乗車させていただきます。トミーです。

引退していく電車・車両には、切なさを感じます・・・。

私が大学生のとき、八王子市に住んでいましたが、最寄駅が八高線の小宮駅でした。
アパート3階のベランダからは、朱色のディーゼル車両が、ゴトゴト大き目の音を上げて走っていく姿が懐かしく思います。
もちろん、乗車しても何か懐かしい、雰囲気とあの揺れ(^^)

そんな八高線も、私が八王子から大泉に引越しをした95年に電化工事をしていました。
もちろん今は電化され、川越線に乗り入れていることは、車掌長さんもご存知のとおりです。

私は、大宮出身で今も大宮在住ですが、その昔、川越線も八高線と同じ車両を使っていましたね。
今は埼京線として随分出世路線となりましたが。。。

ちなみに、私は鉄道博物館で有名になった、ニューシャトルを毎日使っています。
ニューシャトルも私が小学生のときに開業して、かなり車両の老朽化が進んでいましたが、鉄道博物館の開館により、毎年1編成ずつ新旧交代が行われています。
旧車両は自分の青春時代にも乗っているので、少し寂しい気もします・・・。

また、田舎は福島ですが、福島交通良飯坂線(通称:飯坂電車)なんかは、大好きな路線です!
じいちゃん・ばあちゃんと一緒に福島駅前のデパートに一緒に買い物に行ってたことを思い出します。
今も福島には良く行きますが、新幹線を降りて、タクシーではなくあえて飯坂電車に乗ることもあります。

何か、車掌長さんの本文とは趣旨が異なったコメントとなってしまったような気がします・・・。申し訳ありません。

あ、2/4(土)に初めてお座敷列車に乗ります!!
大宮発いわき行きの「お座敷ときわ路号」です。
元原発勤めで被災した、いわきに住むいとこ家族に会ってきます。

生きていると予測もしなかったことが次々に起きますが、家族・親戚・仲間・・・助け合って生きたいです!

車掌長さんからのコメント(2012年1月16日 06:07投稿)

トミー様

毎度「哲×鉄ブログ本線」ご乗車ありがとうございます。

トミーさんの想い出の時間旅行を拝見し、車掌長も追体験のイメージを膨らませ、豊かな気持ちになりました。

福島交通飯坂線、いいですネ!
以前首都圏で活躍した電車が、第2の人生を奮闘している姿とあのガタゴト感が大好きです。

終点の飯坂温泉駅がものすごく立派になっていたのに驚きました。そして、それとは対照的な温泉街の凋落(ちょうらく)にも時の移ろいを感じました。

ちなみに、共同浴場「鯖古湯」はとてもきれいになりました。以前の建物を忠実に再現したようですが、元の雰囲気を醸し出すまでは、相当の年季を要すると感じます。

八王子、大宮ともに交通の要(かなめ)、「鉄道の町」ですネ。今は各地の操車場が次々と縮小されましたが、貨物を含めた車両の入れ替えや動きを飽きずに眺めていた頃を思い出しました。

大宮在住とは「鉄博」の近くで羨ましい限りです!
万世橋にあった頃も通いましたが、上階にある食堂でナポリタンを食べるのが子どもながらの楽しみでした。
151系こだまを模した店内にワクワクしたものです。

懐かしい車両や路線は時代の流れとともに、いつかは想い出の中を走るようになるものです。

今思えば、速いわけでも、冷房もなく、音も揺れも決して快適なわけでもなかったのに、その頃が輝いていたように感じられるのは、「大人」になったからでしょうか…

「大人」とは不思議なことばですね
車掌長は年齢はもう40半ばですが、まだまだ子どもっぽいところが多いです。
よく「大人とは何か」と自問自答してしまいます。

お座敷列車での再会の旅、気をつけて行って来てください。
また、その時のことも良かったらお聞かせください。

2件のコメントがあります → まだまだコメントお待ちしてます!

RAILWAYS

カテゴリー:①番線:鉄道(JR・私鉄)方面 2011年12月22日 05:29

「RAILWAYS」という映画があった。
サブタイトルは「49歳で電車の運転士になった男の物語」。

最近、この物語そのままの夢を実現した4人がいる。
昨年、千葉県の内陸を走る「いすみ鉄道」が、運転士の訓練費700万円を自己負担することを条件で公募し、入社した4人だ。

4人とも40~50代の男性で、もともとはIT会社や家電量販店の社員など脱サラ組だ。
その訓練費を容易に出せたわけではないと思うし、その額もさることながら、何よりも「夢をつかんだ」チャレンジ精神に、惜しみない拍手を送りたい。

いすみ鉄道は国鉄時代の車両キハ52を大糸線から譲り受け走らせるなど、ユニークな経営で着実に乗客を増やしている。
車掌長もキハ52に乗りたくて訪れたが、沿線の郷愁や上総中野駅などのホームの佇(たたず)まいが良い。
何よりも電車や最新の気動車では味わえない乗り心地に魅せられた。

実はいすみ鉄道の社長も公募採用だ。
一度お目にかかり、一言二言話したことがあるが、鉄道にかける情熱には頭が下がる。

このたび、4人がディーゼル車運転に必要な国家資格を取得したニュースを知り、同じ年代を生きる男性に勇気を与えてくれたと思う。

「夢はかなう」
もちろん、それには必ず困難が伴うし、実生活を考えれば誰もがかなうわけではない。
しかし、その実現に向かって踏み出す勇気や努力、その姿に自分を重ね合わせると、不思議なパワーをもらえる気がする。

彼らの運転する気動車が走るのは来年GW以降とのこと。
ぜひ、再訪したい。

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